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15.税金でバカンスに行く英語教師

みなさんは、東京都教育委員会が行っている留学研修事業のことをご存知でしょうか。以下は、2013年11月毎日新聞からです。

「都内の公立中学と高校で英語を教える採用3年目の若手教員約200人全員を、3カ月間海外留学させる方針を決めた。2020年東京五輪を控え、英会話などコミュニケーション能力を育てる授業を強化するのが狙い。教員の海外生活を「必修」とするのは極めて珍しいという。  公立校の英語教員になるのに海外に行った経験は問われず、全国的な留学制度もない。都教委では中堅(31~42歳)の英語教員と教育委員会職員を対象にした1年間の留学制度があるが、派遣枠は年間で4人分しかなかった。

しかし、今年4月から完全実施された高校の新学習指導要領は「英語の授業は英語で行うことが基本」と明記。現場は文法重視からコミュニケーション重視への指導法の転換が求められるようになった。そうした背景に9月の五輪開催決定が重なり、留学制度の大幅拡充を決めた。

都教委によると、留学先は英語圏の大学など。英語を母国語としない生徒を指導するための資格取得(※筆者注 TESOL)を課し、英語だけの授業運びや、活発なディベートを生徒に促す方法などを学ばせる。一般家庭へのホームステイも予定し、英語漬けの生活を徹底する方針だ。

都の来年度予算案に、留学生の授業料や滞在費など計約6億円を要求した。都内の公立校英語教員は約3300人おり、15年程度で同じ人数が留学する計算になる。派遣期間中は非常勤講師などの配置で対応する。」


考えても見てください。6億円という予算があれば、東京の全ての公立中高に10,000冊程度の英語多読・多聴ライブラリーをそろえることができます。もし本当に留学させるなら、留学から帰ってきた後に、対象教員全員の授業をいつでも公開して、多くの方に検証してもらう必要があるでしょう。

英語圏の大学に留学してTESOLを学ばせるということですが、そもそも留学しないと英語が使えないような人が、英語の講義についていけるのでしょうか。また、英語圏の大学でTESOLを学ぶことは海外へ行かなくても、日本にいながらオンラインでもできます。

知り合いの英語教師が3ヶ月間のコースをとっていました。フルタイムで仕事をしながらの授業はきつかったそうですが、世界中の先生たちと議論を交わしたり、非常に有意義なものだったそうです。

日本にいながらでも、今はいくらでも英語を使うことができます。英語の先生が日本で仕事をしながら英語を使えるようにする、TESOLの資格をとるといったことも、税金を使ってやらなくても、発想をかえれば簡単なことです。

英語が使えない英語教員を採用しておいて、税金6億円を使って留学させる、そんなことってありですか?また、「15年程度で」とありますが、6億円を15年間に渡って使い続けるということでしょうか。そうすると、全部で90億円にもなるのです。

「派遣中は非常勤講師で」ということは、これプラス講師の人件費で税金を使うわけです。また、授業以外の業務は非常勤講師にはできませんから、他の先生の負担も増えるでしょう。子どもたちの面倒を見てもらえる時間は、さらに減ってしまうのです。

実はこの知り合いの非常勤講師ですが、3ヶ月働いても、その後の仕事につながるわけではないそうです。英語教師をやったことのある友人の話では、なり手がなくて高校は困り果てているそうなのです。

「教師の方の英語能力はどうでもいいんです。授業をこなしてもらえれば」と、副校長から懇願されたそうなのです。生徒や保護者だけでなく、納税者全員をバカにしたこんな政策が許されていいのでしょうか?


そして次に見つけたのが、某有名国立大学教授の方の投書でした。東京新聞の投書欄ミ2014年1月7日朝刊の5面です。

「三か月の海外研修は、若き英語の教師が異文化とのバトルを行う貴重な機会となるだろう。そして、この体験を生徒たちに伝え、分かち合うとき、東京の英語教育は五輪に向けて世界に開かれた教育となるだろう。」

この文章を改めて読むと、日本が鎖国政策をやめて開国した頃に書かれた文章のようです。明治維新の匂いを感じます。まさに北海道開拓時代のクラーク博士による「若者よ大志を抱け!俺は旗を振って応援してやる」のようです。

この方は言語政策の専門家だそうですが、政策の専門家であれば予算と効果をよく考えて発言していただきたいものです。いくら3年目の先生を全員留学させたとしても、全体から見ればごく一部なのです。このごく一部の先生が、生徒と体験を分かち合うことで、「世界に開かれた教育」になるというこんな陳腐な政策を立案するのが専門家なのでしょうか?

また、「体験を分かち合う」というのも、具体的にはイメージがわきません。「私、海外でこんな体験してきたんだけど…」という話を生徒とするのでしょうか?先生に体験を分かち合ってもらわなくても、テレビを見れば、タレントが秘境にまで行って身体を張ってレポートしている番組がいくらでもあります。

さらに、「異文化とのバトル」というのもおかしな表現です。「言語話者との関わりの中で、相手が自分をどのようにとらえ、また自分も相手をどのようにとらえているのか、相手の立場を理解し、異なる言語で営まれる世界に心を開き、異言語や文化に生きる人々への寛容を育む能力である。

いわば外国語を通じて、自己の観点を相対化し、自分の言語や出身国を中心とする世界観を乗り越える能力である。」 などとご立派なことを書いていますが、これはなんとなく異文化を肌で体験したことのない人が言いそうな理想論だなと、そんな気がします。

英語を使って様々な文化背景をもった人とやりとりすることは、今ではインターネットを使えば簡単にできることです。それも無料でできます。学校でも交換留学生との交流など、異文化交流の機会があります。税金使って海外に行かなくても、日本に来ている外国人の方と交流すればいいことです。


さらにもう一つ、教育庁主要施策には、「英語圏の大学において最先端の指導法などを身に付けられるよう、集中的に研修を実施する」とありました。英語圏の大学に行けば「最先端」が学べる?どこまでも明治維新な考えです。

英語圏で進んでいるのは第二言語として英語を学ぶ方法の研究です。例えば、移民の人たちが英語を使って今すぐ生活しなければならない。そういう日常的に英語を「第二言語」として使う人たちを対象とした研究です。

しかし、日本人にとっての英語は外国語、日常では使う機会がない言語です。第二言語と外国語の習得方法の違いについては、すでに多くの研究がされています。英語圏の大学における研究は多少参考にできることはあっても、日本人の学習には当てはまらないことも多い、こんなことは英語習得について研究している人であれば常識でしょう。派遣される英語の先生は、そんな知識も持たずに研修へ行かれているのでしょうか?

異文化体験と言いながら、実際に派遣されている国は、アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・イギリスとあります。現代の日本人にとって、こうした国々の文化のどこが「異」なのでしょう。現地に行けば、他の国から来ている人にも会えるから、それが異文化体験になるという話でしょうか?

本気で異文化というのであれば、世界中の様々な文化圏に派遣すべきです。どこへ行っても英語を使って交流するチャンスがあります。インド、フィリピン、アフリカ各国などたくさんありますけど若い先生が行きたいのはメジャーな国だけということなのでしょうか?異文化体験というより、西洋崇拝思想の刷り込み・強化だと感じるのは私だけでしょうか。

教師の海外派遣で英語力や指導力の向上は期待できませんが、異文化体験にはなるという専門家の方の意見を考えると、英語を国際共通語として使い、非英語圏の方とも交流するのがあるべき姿ではないでしょうか。

アジア諸国や発展途上国の様子をもっと知るべきです。海外まで行かなくても、国際交流のできる催しはたくさんありますし、ネットで英語を使えば無料で世界中の人と交流できます。近所にある使える英語を身につけることを特色とする中学と高校では、図書館に一万冊近くの英語の本があります。

授業では、比較的やさしい英語で書かれたさまざまな本を自由に読んだり、朗読を聞いたりするそうです。間違いを気にせずに、たくさん書いたり話したりもするそうです。その高校の生徒さんに話を聞いたところ、英語を使うことに抵抗感がなくなり、ごく自然に英語が使えるようになっている、という答えが返ってきました。億単位の税金があるのなら、この高校のように、生徒たちが英語を積極的に学べる環境を整えることこそが、有効な税金の使い道というものではないでしょうか。

さて、この事業が始まって、もうかなりの人数の先生が研修に行かれているようです。知り合いの方も行かれましたが、感想をうかがうとこんな感じでした。

「アメリカでの研修は勉強になりました。もう一度大学生をした感覚でした。課題も多く、英語しか使用しない状況は私にとってはいいものでした。ただ、研修後半は課題も少し減り、余裕のある時間もありました。」

「一緒に行った教員は、普段から学校で英語だけで過ごしているので、「日本にいる方が英語を使っている」と話していました。」


本当に年に6億かける価値ありそうですか?いつも思うのですが、英語の先生のレベルを問題にするのは意味がありません。英語力アップなどやる気があれば日本にいながらいくらでもできるからです。

世界中のラジオ番組を英語で聞き、アプリを使い、電子書籍リーダーをカバンに入れておけば、ちょっとした待ち時間にいつでも英語の小説を読めます。ネットで英語の記事やニュースを読んだり、英語のドラマを見たりすればいいことなのです。

英語教師をしていても、常に自分を高めようとする意欲のない人に、お金を出してあげて勉強に行かせれば、その人は意欲的な先生に変身するとでもいうのでしょうか?とにかく、英語の先生に英語力を期待しても何も解決しません。なぜなら、好奇心旺盛で、英語ができる・使える、常に英語力アップを心がけている、そういう人には、いくらでも魅力的な職業が他にあるからです。

そうした中で、教職につきたくて英語教師になる人はいても、英語の実力があるから英語教師になる、という人が増えてくるとはとても思えません。英語の先生の英語力には期待できないとしたら、ではどうすればいいのでしょう。答えは簡単です。

英語を浴びる環境を整えればいいだけのことです。中でもすぐにできるのが、やさしい、読みやすい、様々なジャンルの英語の本を大量にそろえてライブラリを作ることです。税金を使うべき場所は、英語を楽しみ・使い・学ぶ環境作りです。

生の英語を読み聞きする環境が整っていれば、先生の英語力はあまり問題になりません。また多読をコアにすれば、先生は達人でなくても大丈夫です。本も先生なのですから。いいことずくめです。知識を伝えることが先生の仕事という時代は、もう終わっています。これからは、適切な「学び方」が助言でき、自らがモデルとなり、英語を使うサポートをするというファシリテーター的な仕事することが、先生には求められているのではないでしょうか。

 

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